
着物は、千年以上の歴史を持つ日本の伝統衣装です。
現代でも、成人式や結婚式などの晴れの日に着られており、日常でもカジュアル着物として楽しむ人が増えています。
平安時代から始まり、武家文化が花開いた鎌倉・室町、町人文化が成熟した江戸、そして和洋折衷が進んだ明治以降の時代まで、着物はどのように変化してきたのでしょうか。
本記事では、着物の歴史をひもときながら、日本文化における魅力、そして今と昔の違いについてわかりやすく解説します。
現在着られているような形の着物が生まれたのは、平安時代からと言われています。ここでは、縄文時代〜平安時代を経て、どのように衣服が発展し、現在の着物の原型が形づくられていったのかについて解説します。
縄文時代は、獣の皮や植物の皮・羽毛を用いたワンピース型の衣服を着ていました。体温調整や体の保護を目的としていたそうです。弥生時代になると男性は巻布衣を、女性は貫頭衣を着け始めます。また、弥生時代には朝鮮半島から絹糸を織る技術や機織具が伝来し、身分の高い人は絹の衣服、一般の身分の人は麻などの植物繊維を用いた衣服を着用するようになったと推測されています。
古墳時代は、上下が分かれたツーピース型の衣服を着ていました。大陸との交流が進み、異国文化を取り入れたことがきっかけと言われています。男女で服装が異なり、男性は筒袖がついた上衣に足結というズボン状の下衣を、女性は筒袖がついた上衣に衣裳というスカート状の下衣を合わせて着ていたようです。また、古墳時代では養蚕も盛んになり、絹織物の技術も発展し始めます。
奈良時代には、遣唐使の派遣により唐の文化を取り入れ、漢服と呼ばれるゆったりした衣服を着る人が増えたようです。また、719年の衣服令により、どんな身分の人でも衣服は右前で着用するように定められました。これが現在の着物の右前ルールの由来です。
平安時代には、庶民は現在の着物の原型とされる小袖が主流となり、公家などは束帯や十二単を着るようになります。
平安時代の公家などは、袖がゆったりとした大袖を重ねていましたが、庶民は労働に向いた軽装の小袖を着ていたようです。鎌倉時代に入ると武家は公的な場では大袖を、私的な場では小袖を着るようになったと推測されています。室町時代になると、武家や町人が絹を用いた袂のある小袖を着るのが主流となり、公家を除く多くの人々が小袖を着用していたようです。
着物という言葉が比較的早く用いられ始めたのは室町時代あたりとされています。室町時代の後半には町人が台頭し、絹地で袂のある小袖を着ていたようです。そこで、袂のついた小袖を通常の小袖と区別するために「着物」という言葉が誕生したと言われています。もともと着物は日本語で衣服という意味でしたが、洋服が一般的になった現代では、「着物=和服(日本の伝統衣装)」という認識へと変化しています。
ここでは、時代ごとの着物の歴史と移り変わりについて解説します。
鎌倉時代は武家政権が成立したことで、衣服にも実用性が重視されるようになりました。武士は儀礼的な場では従来の格式ある大袖を着用しましたが、日常生活では動きやすい小袖が広く用いられました。小袖は庶民にも普及し、労働に適した軽装として日常着となります。こうして、平安貴族の重ね着を特徴とする華やかな服制から、武家中心の簡素で機能的な衣服へと社会全体が移行していきます。
室町時代には、武家を中心に袂のある小袖が外衣として着用されるようになり、裕福な町人層にも絹の小袖が見られるようになりました。また、能楽が武家の保護を受けて発展し、華麗な能装束が誕生するとともに、金襴や唐織などの染織技術も大きく向上した時代でもあります。
戦乱が平定された桃山時代では、繍箔・摺箔・絞りなどの高度な染織技術が発達し、辻が花染はこの時期に最盛期を迎えました。男性は肩衣袴、女性は豪華な打掛姿が広まり、南蛮貿易の影響によって葡萄唐草などの異国趣味の文様が着物にも取り入れられています。
江戸時代には、友禅染が発達し、元禄期には金箔や絞りを用いた明るく華麗な小袖が作られました。身分により素材や色に制限があったものの、後期になると庶民は「四十八茶百鼠」と呼ばれる渋い色の工夫でおしゃれを楽しみました。この時代に現在の着物とほぼ同じ形の小袖が完成したとされています。
明治時代以降は、明治維新により西洋文化が急速に流入し、生活様式は大きく欧米化しました。宮中や官公庁では礼服が洋装に統一され、上流社会から和洋折衷の文化が広がります。都市部では女学生を中心に和服にブーツを合わせるといった新しいスタイルも生まれました。昭和に入ると洋服が日常着として定着し、着物は次第に冠婚葬祭など特別な場で着る礼装へと位置づけられるようになりました。
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ここでは、素材の変化や着付け方法、冠婚葬祭における役割から、昔と今の着物の違いを解説します。
昔の着物は、絹や麻、木綿などの天然繊維が中心でした。そのため、江戸時代には庶民は木綿や麻、裕福な層は絹を着用していたようです。
明治時代に化学染料が導入された後は、鮮やかな発色が可能になり、昭和以降はポリエステルなどの化学繊維が普及しました。手頃な価格で購入できる上に手入れが簡単なことから、広く受け入れられて着物の大衆化が進みます。
江戸時代では、四十八茶百鼠と呼ばれる渋い色や細かい江戸小紋が粋とされていました。江戸小紋には、魔除けや長寿を願う意味が込められた柄も多く、「鮫」「角通し」「行儀」は品格の高い柄として武家の礼装にも用いられています。
明治時代は西洋文化の影響で鮮やかな色彩が登場し、大正時代には大正ロマンの大胆で華やかなデザインが流行しました。昭和は戦後のレトロポップな柄が特徴的です。現代では、伝統柄が持つ吉祥やおめでたさといった意味を大切にしながらも、幾何学模様やモダンな色使いを組み合わせるなど、より自由で現代的なアレンジも増えています。
昔の着物は、補正をあまりせず体の線に自然に沿わせる着方が主流でした。一方、現代では着崩れを防ぐためにタオルで寸胴体型を作り、帯板や帯枕などの便利な小物を使用します。セパレートタイプの着物など着付けを簡単にする商品も存在し、初心者でも短時間で整った着姿になる便利なアイテムも広く普及しています。
昔は、冠婚葬祭の正式な装いといえば着物を着ることが当然でした。喪主は和服を着用し、女性は黒無地の五つ紋付、男性は黒羽二重の紋付羽織袴が定番の形式です。
現代では皇室でも洋装が増え、洋礼服が一般的になっています。着物は必須ではなく選択肢の一つとなり、伝統を重んじる方や格式を大切にする場面で着用されることが多くなっています。
昭和中期まで、着物は普段着として広く親しまれていましたが、高度経済成長期に生活の洋風化が進んだことで、着物は次第に特別な装いへと変化します。
特に、バブル期に呉服業界が着物を高級な冠婚葬祭用品として販売し始め、日常から切り離されるようになりました。平成以降は、アンティーク着物の流行で普段着物を楽しむ人も増えましたが、基本的に成人式や結婚式など特別な日の装いとして位置づけられています。
ここでは、日本文化における着物の魅力について解説します。
着物は、日本の四季を色彩と文様で映し出す伝統的な衣装です。春には桜や若草色、夏には水辺を思わせる涼やかな青、秋には紅葉や金茶、冬には梅や雪輪など、季節の風景をそのまま反映させたかのような美しさがあります。
また、鶴は長寿や夫婦円満、蝶は女性の成長、うさぎは子孫繁栄の象徴など、文様にはそれぞれ意味が込められており、身に着ける人の幸せを願う祈りも表現されています。
着物は単なる衣服ではなく、礼を尽くす心を形にした装いです。洋服よりも動きに制限があるため、歩き方や座り方、物の受け渡しなど、一つひとつの所作に気配りが求められます。
所作を意識することで、外見だけでなく心の面でも落ち着きが育まれ、着物が大切にしてきた礼を重んじる精神を体現できます。着物は、着る人の内面までも美しく見せてくれる、日本ならではの礼儀文化と深く結びついた装いなのです。
着物には藍染や友禅染、絞り染めなど多彩な染色技法が用いられています。例えば、藍染は奈良時代から続く技法で深い青色が特徴です。友禅染は江戸時代に最盛期を迎えた染織技術で、手描きで精巧な模様を描きます。職人の手作業で行われる染織は、伝統工芸として受け継がれており、一つとして同じものはありません。
着物は、日本の伝統芸能や芸術の場で欠かせない存在です。歌舞伎では豪華な衣装が舞台を彩り、役柄や身分、物語の世界観を視覚的に表現します。茶道では季節や格式に合わせた着物を身にまとい、亭主と客が調和するわびさびの精神を大切にします。また、能楽や日本舞踊などの舞台芸術でも、繊細で格調高い装束が用いられており、日本の伝統文化を伝える重要な役割を担っているのです。
着物は、19世紀後半のジャポニスムでは浮世絵と共に着物が欧米に渡り、ファッション界に大きな影響を与えました。海外では、「着るアート」と称され、ポール・ポワレやマドレーヌ・ヴィオネなどのデザイナーは着物のT字型裁断法に注目し、直線構成の服を創作しました。
現代でもジョン・ガリアーノやトム・ブラウンが着物からインスピレーションを得ており、国際的な文化として認識されています。
ここでは、現代における着物の楽しみ方について解説します。
現代でも、成人式や結婚式などの特別な日で着物を着る文化が残っています。例えば、成人式では、未婚女性の正装である振袖を着て式典に行くことが一般的です。
結婚式では、新婦は白無垢、ゲストは訪問着や色留袖を着用するケースも多いです。特別な日に着る着物は、人生の節目を美しく彩り、その瞬間をより思い出に残るものにしてくれます。
近年では、普段着として着物を楽しむ人が増えています。洗える素材のポリエステル着物も登場していて、お手入れが簡単で気軽に着られる点も人気の理由です。着物は、帯や小物を変えるだけでも雰囲気が大きく変わるため、日々のコーディネートを楽しめる装いとして受け入れられています。
かつては、着物を着る際は購入や仕立てが前提でしたが、近年では着物レンタルサービスが全国で普及し、高価な着物を手頃な価格で楽しめるようになりました。
着物のレンタル店では、成人式や結婚式向けの振袖・訪問着から、観光地での着物体験まで多様なプランがあります。着付けやヘアセット、記念撮影を含むパッケージも充実しており、初心者でも安心して利用できることから、観光客からも人気を博しています。
着物を自分で着られるようになりたいという需要に応え、着付け教室も各地で開催されています。着付け教室では、初心者向けの基礎コースから上級者向けの専門技術まで、レベルに応じたカリキュラムが用意されているため、初めての方でも安心して学べます。
近年ではオンライン講座も増えており、自宅で自分のペースで着付けを学ぶことも可能です。彩きもの学院でも、教室での丁寧な指導に加え、動画学習やオンラインサポートを活用しながら着付けを身につけられる環境を整えています。学び方の選択肢が広がった現代だからこそ、自分に合った方法で着付けを身につけ、着物を楽しむ第一歩を踏み出してみましょう。
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