半円形を幾重にも重ね、 扇形の波を意匠化した青海波。柄の発生は古く、古代ペルシャで生まれ、シルクロードを経て中国に渡り、日本に伝わったのは飛鳥時代といわれています。当時の埴輪には、衣に波文が刻まれた女性像が残されています。
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(※画像はすべて、彩きもの学院私物)
平安時代には、源氏物語「紅葉賀(もみじのが)」に青海波という雅楽を舞う光源氏が描かれていますが、その衣装には波に千鳥の文様をつけるというきまりがあり、青海波の名前はこの曲名に由来すると考えられています。
この文様を世に広めたのは、江戸時代の元禄期の塗師・青海勘七で、漆器や刀装具に塗装された図案は、きものの柄としても大流行しました。
長い歴史の中で、青海波は自然を描いた装飾的な美しさが愛好されてきましたが、日本に根づく中で次第に縁起の良い意味あいを持つようになります。私がそれを知るきっかけとなったのは2010年に放送されたNHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』でした。結婚する娘に母は青海波文様のきものを仕立て、「青海波の波の模様には日々の暮らしが静かな海のようにいつまでも続くという意味があるのよ」と伝えます。何でもない模様に命を吹き込む日本人らしい感性に心動かされ、きものの文様に魅了される契機にもなりました。
無限に広がる波の模様には広い海がもたらす恩恵が感じられ、幸せと平安な暮らしが未来永劫続くようにとの願いが込められているのです。
平穏な暮らしが続くと非日常に幸せを求めがちですが、コロナ禍にあって、普通の日常こそが本当の幸せなのだと痛感する昨今です。青海波文様は現代の私たちに大切なことを語りかけてくれているようです。
彩きもの学院新宿校校長。自身も生徒として彩きもの学院で学び、 講師の資格を取得。各校で講師として経験を積み、2015年に校長職に就く。2013年、きもの文化検定1級取得。
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