雀は四季を通して日本中どこでも見かける身近で親しみやすい鳥です。天敵から身を守るために人里近くでないと生息しないため古来よりその姿を観察する機会も多く、日常の中から自然と生まれたモチーフのひとつです。平安時代に異国的なものから和的なものを好む風潮の中で考え出された文様で、群れを作り行動する雀は古くから繁栄や豊作を象徴する吉祥柄といわれています。
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(※画像はすべて、彩きもの学院私物)
春には人家の軒下から巣立つ子雀の姿、秋には稲穂や枯れ枝に群れる姿、そして冬には寒そうに羽を膨らませる姿に人は心癒され、様々な文様として意匠化していきます。この膨らんだ雀は「福良雀(ふくらすずめ)」と字を当て、縁起の良い文様として広く好まれてきました。振袖の帯結びの呼称としてご存じの方も多いかもしれません。
また、鎌倉時代の「宇治拾遺物語」の「舌切り雀」のお話から、竹と雀の取り台わせは縁起の良いものとされ、上杉家や伊達家の家紋としても有名になりました。
そんな雀は、江戸幕府13代将軍・徳川家定の正室、天障院篤姫が愛した文様としても知られています。 2020年の夏に東京国立博物館で開催された特別展 「きもの KIMONO」では、雪持竹雀文様の小袖をはじめ、雀をあしらった篤姫の愛用品が多数展示されていました。雀は一族の繁栄や富を象徴する柄ですから、遠く薩摩から徳川家に嫁ぎ、徳川家の存続に生涯を捧げた篤姫の強い願いが込められていたと思うと、とても感慨深いものがあります。
そしてこの展示会で、偶然以前の生徒さんと嬉しい再会をしました。それがきっかけで、このコーナーを執筆させていただいています。篤姫が愛した雀は、現代の私にも豊かなご縁を運んでくれたようです。
彩きもの学院新宿校校長。自身も生徒として彩きもの学院で学び、 講師の資格を取得。各校で講師として経験を積み、2015年に校長職に就く。2013年、きもの文化検定1級取得。
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